音楽の聴き方や作り方を変えてくれるような、すぐれた音楽本の存在をたくさんの人に届けるため、2023年にスタートした「音楽本大賞」。第二回となる2024年度の大賞が発表されました!選考委員の選評も合わせてご紹介。話題作をぜひチェックしてください♪
【音楽本大賞】
ミュージック・ヒストリオグラフィー ~どうしてこうなった?音楽の歴史~
ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス
【選評】
横川理彦(選考委員長)
あたりまえのように流布している大作曲家や名曲の歴史を現在の視点から見直し、これからの音楽の可能性を見渡す傑作。文章が読みやすく親近感が持てるところもすばらしい。ぜひ、広い世代の読者に薦めたい。
小室敬幸
もちろん体裁としては著者のひとり語りなのだが、文章から感じられるのは徹底した対話の姿勢だ。想定読者の知性と好奇心を疑わない著者と会話を積み重ねていけば、凝り固まっていた価値観は解きほぐされ、もっと自由に音楽と向き合えるようにしてもらえる。
松平あかね
興味深いエピソードを入り口に、音楽史を鵜呑みにしないよう促しつつ、専門知識のない人でもいつのまにか西洋音楽史を把握できるように配慮されている。ジェンダーや人種問題、音楽史の未来についても言及がある。
毛利嘉孝
なんとなく「変だなあ」と思っていたけどいまさら聞けない西洋音楽史の成立をめぐるさまざまな疑問を、音楽史を知らない人にもわかりやすく解説した爽快な著作。とても平易な文体なのに、ところどころ最新の歴史学の知見も盛り込まれていて、深い。クラシック音楽の聴き方が変わる。
渡邊未帆
「音楽史とは何か?」を丁寧に問いなおし、「西洋音楽史」を著者の視点で現代にアップデートして語りなおした挑戦的な一冊。マクロなビジョンを持ちながらも、随所に笑いを誘い出すミクロなエピソードを挟み込んでいて、一般読者も専門家も惹き込むことと思う。まさに「音楽本大賞」的!
【特別賞】
小学館の図鑑NEO 音楽 DVDつき
小学館
【選評】
ジャンルの越境、西洋中心主義からの脱却と言葉でいうのは易しいが、一冊にまとめるとなると大きな困難が立ちはだかる。だが本書は、考え抜かれた構成によって特定の何かを貶めることなく、音楽文化の多彩な可能性を子ども達に伝えてくれる。(小室敬幸)
【個人賞】
作曲家◎人と作品 シェーンベルク
㈱音楽之友社
【小室敬幸選】
対象となる人物の価値観・思想が驚くほど立体的に立ち上がり、彼が手掛けた作品への興味がこれ以上ないほど掻き立てられる。児童書から学術書まで、日本語でも数え切れないほど音楽家の伝記は書かれてきたが、本書はその理想形のひとつだろう。
トーキョー・シンコペーション
㈱音楽之友社
【松平あかね選】
著者は現代音楽研究の第一人者にして批評家。多岐にわたる話題から本題へ深く切り込んでゆく語り口が鮮やかで、1話完結のショートフィルムを見る感覚で各章を読み進めた。好奇心を持ち続けたい音楽ファンにぜひ。
地域研究叢書 ポピュラー音楽と現代政治 インドネシア 自立と依存の文化実践
京都大学学術出版会
【毛利嘉孝選】
インドネシアのポピュラー音楽、ロック、インディーズ、メタル、パンクの発展を詳細に記述しながら、ミュージシャンたちが政治から距離をとり、反体制的な態度を示すだけではなく、皮肉なことに積極的に保守的で権威主義的な政治の主体になっていくことを丹念に描きだしている。ポピュラー音楽と政治はどのような関係を持つのか。今後の議論の起点にすべき挑発的な著作。
ヘンリー・カウ――世界とは問題である
月曜社
【横川理彦選】
1968年から10年間、革新的なロックで社会の変革をしようとしたイギリスのバンド、ヘンリー・カウの軌跡を辿る評伝。膨大な関係者への直接のインタビューと資料整理が邦訳2段組約500ページに詰まっている。力作だ。
ちんどん屋の響き 音が生み出す空間と社会的つながり
世界思想社
【渡邊未帆選】
大道楽師集団ちんどん屋は、日々路上を歩き、音を出しながら、何を感じ、考えているのか? 本書では、彼らの一見艶やかで異質な姿からは我々が容易には予想できなかった、他者を聴く「哲学」が記述されている! 著者の感受性と想像力と敬意こそがそれをあらわにしているのだろう。
ノミネート作品(一部の商品となります)
サウンド・アートとは何か 音と耳に関わる現代アートの四つの系譜
ナカニシヤ出版
音や聴覚にまつわる様々な作品が一見雑多に包摂される「サウンド・アート」という曖昧で魅力的な芸術の領域は、どのように成立したのか。視覚美術、音響芸術、音響再生産技術への注目、サウンド・インスタレーションという四つの文脈から、各系譜を丹念に辿り、徹底的に整理・解説する!
2023年 大賞受賞作品
フィールド・レコーディング入門―響きのなかで世界と出会う
フィルムアート社
【選評】
横川理彦(選考委員長)
「フィールド・レコーディングを広く知ることができ、一般読者の誰でも楽しめる。たいした機材でなくても、みんながフィールド・レコーディングをしたらいいのでは。広く読まれていい本。」
小室敬幸
「研究と実践に垣根なく取り組んできた著者ならではの内容で、敷居の低さと裾野の広さを両立させた良書。自らが考える可能性に沿ってフィールド・レコーディングという主題を戦略的に切り拓いていく姿勢は、実に刺激的だ。」
松平あかね
「人は音をどう聴くのかという根幹について考え直すきっかけになる。誰でも簡単な機材を持って外に飛び出せば、クリエイティヴィティを発揮できる。ポジティブな感覚で紹介できる本だが、その一方で録音がゆるされない民族や地域もあるので、そうした禁忌とどのような距離を取るべきか、それぞれが注意深く考える必要がある。」
渡邊未帆
「まず、丁寧な構成がとてもよい。そして、実際にやってみたくなる。これを読んでバイノーラルマイクを買って商店街を歩きながら録音したら、雑踏の中のリアルな会話が録音されていてドキリとした。聴覚におけるプライバシーの問題などにも気づかされた。」
輪島裕介(ゲスト選考委員)
「録音と音楽ははたしてどういう関係なのか。録音は、どこまで音楽なのか。そもそもこの本が「音楽本」であると留保なしで言っていいのか。そういったことを含めていろいろなことを考えさせ、自分でもやってみたくさせる素晴らしい本。」