作曲：V. ダンディ
校訂・解説：川上啓太郎
菊倍判／84頁
グレード：初～中級

ヴァンサン・ダンディ（Vincent D’Indy 1851～1931）は、当時オペラに傾注し質の低下を招いていたパリ音楽院に対抗して、宗教音楽を軸とした音楽学校スコラ・カントルムを設置したフランス音楽史上で重要な人物。
本曲集はタイトルからも分かる様に子供向けの教育的な小品による曲集で、導入期から現代曲のレベルまで順に上達できる様に考えられている。収録全24曲。原本は全3巻から成るが1冊にまとめた。
第1巻
1. ちいさなパルティータ ハ調
　１. 2本の指のために　
　２. 3本の指のために　
　３. 4本の指のために　
　４. 5本の指のために　
　５. コラール

2. グレゴリオ聖歌による４つの調べ
　１. 第1旋法（レの旋法）　
　２. 第3旋法（ミの旋法）　
　３. 第5旋法（ファの旋法）　
　４. 第7旋法（ソの旋法）

3. フゲッタ ロ短調

4. 舞曲
　１. パヴァーヌ　
　２. ガイヤルド

5. クープラン
6. スカルラッティ
7. ラモー
8. 美へと向かって

第2巻
9. Ph. エマヌエル・バッハ
10. モーツァルト
11. ルスト
12. ハイドン
13. ベートーヴェンのそばに
14. ウェーバー
15. シューベルト
16. メンデルスゾーン

第3巻
17. ショパン
18. シューマン
19. リスト
20. フランク
21. シャブリエ
22. ★
23. ドビュッシー
24. 現代の様式
本曲集について

　当時20歳を迎えようとしていた孫娘マリー＝アリス・ドゥ・ラ・ロレンシーに捧げられた本曲集は、《すべての子どものために（あらゆる年齢の子どものために）　24の練習曲 難易度順、全3巻からなるピアノの形式と様式を辿る音楽略年表》という長いタイトルを持っています。『作曲法講義』の内容を音楽作品化したような体裁で、楽譜に添えられた序文でもその教育的作品としての意図ー専門教育を受ける子どもが、音楽の形式と様式を自力で見抜くことができるようにすることーが明文化されています。

　既存の曲の選集という形をとらなかった理由については、長すぎる曲は子どものやる気を削いでしまうこと、しかしながら巨匠の作品は切り取ってはならず、敬意を持って全集が丸ごと紹介されなければならないこと、さらには原曲を年代順に並べるとなると技術的な困難を強いることなどを挙げています。そして芸術的価値も教訓的理由もない模倣〈パスティーシュ〉を提示するのは何よりも避けたかったこと、また子どもはその時代（本曲集が刊行された1919年）に生きなければならないことから、この作品では現代的な和声の発見を拒むことはなく、その一方で、各作曲者の才能のうち第一義的な特徴のひとつ、少なくともその作曲家の様式を作り上げる最も重要なものが現れている箇所を、慎重に保存したと主張しています。（～続く）