合同会社ミューズ・プレス

山本純ノ介:梅花月下の舞

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山本純ノ介:梅花月下の舞

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「梅花月下の舞」の出版に寄せて(山本純ノ介)
 この曲は、二十五絃箏による私小説のような交響詩的叙情組曲です。
 絶対的な音楽思考や動機の展開は筆の進む儘に任せました。現代的、前衛的な作曲技法の追求などでなく、現代人としての感覚を活かした浪漫的でより叙情的な時間と空間に想いを馳せた作品にしたい。淡い色彩が徐々に色濃くなるような、グラデーションが次第に一つの色に塗り潰されていくような時間=音楽。そんな「素描(デッサン)」の時間」を重ねるごとく創作の準備は進んだ。西洋音楽的な発想で臨むのではなく、より日本的、東洋的な美意識を持った創作を目指そう。そんな想いの音像や音響が次第に脈々と連絡し合い、大きな「響き」「波」となって太い幹のようになってきた。そして深く感謝する音楽にできないか。

 そこで曲の最後を閉じるために吟じられるテキストを選定することとした。
 「我が園に 梅の花散る久方の 天(あめ、)より雪の流れくるかも」*この歌は私には特段の想いがあります。父が晩年過ごした八畳の床の間横から通ずる縁側に、厳しい寒さとともに毎年美しい梅が咲く。祖父の時代から家族は何となく楽しみにしていた。その梅や庭はもうありません。幼い頃に祖父と山ほど梅摘みをした覚えがあります。時が過ぎ私がこの古木を切らねば成らぬとは、、、。痛恨の極みです。その梅花が私の様々な煩悩を打ち消すための祖霊祈祷のごとく静々と雪のように散る様は私を諭し感謝の念に変えました。散り行く花弁やこの短歌が心を癒し共振し未来に想いを託せと。
 二句切れで、天空に雪の白色を重ねることで、無限の可能性や美しく吟唱される天平の声が聴こえるようです。大伴旅人はもっと優雅な環境で詠まれたのでしょうが、白梅に対する私の淡い想いをこの歌に託すことにしました。

 当初、委嘱された経緯から「二十五絃箏の技術的な可能性を追求できる奏者のための音楽」との思いから始まった。しかし次第に、聴衆や人々の「より身近な音の集合」、個々が知覚する、様々な信号や雑音から滲み出るような「サウンドスケープ」、「見過ごしてしまう、聞き過ごしてしまう、わずか「ほんの一瞬に、命がある音たち」の集合が音楽にならないか、とか、「木々や、岩が発している音」「アニミズムの魂たち、神々のハミング」を音楽にできないか、などと変化してきた。最終的に「梅の花が美しく散る」「梅花は必然に散る。なぜ散るのか。その様、散る様の魂を慰める=父や祖先への深い敬意」となり「感謝の音楽を創ろう」と感じ始めた。これは長い時間をかけて熟成されてきたこの楽器の在(いま)に相応しいと確信するようになった。

 さて曲は三つの部分から成り徐々粛々と進んでいきます。
 一曲目「蕾膨らむ」は厳しい寒さの中で新しい芽、命が「存(ある)」場所や意義、主張を感じさせる。その瞬間、喜びや不安が交錯し対峙しはじめる。鼓動その息吹。
 二曲目「花見ゆる」は実際の花芯が花神によって何層にも織りなす花弁に変様、変貌する様。成長の喜び、期待であるが「待つこと」への試練、我慢が同時にある。
 最後の三曲目「散華」は多くの困難なパッセージ群を完奏し最後に短歌を吟じることで、新しい事象に到達したとする。散華は感謝、救い、希望に昇華した音楽に変貌する。     
 吟唱後の結尾では第一曲目冒頭の音列を活かしたフレーズが変容され再現。続いて第三曲冒頭の律動による異なる音律が現れ、新たな息吹の存在を予見して曲は閉じる。

 二代目野坂操壽先生から作曲の依頼を受けた時は、数ヶ月で完成できると思われたのだが、二十五絃箏の可能性は深く、様々な音色、和音、対位法の追求、前衛的な手法なども十分可能なこともわかった。しかし先に述べたような経緯から、真に音楽に必要な技法のみを用いた「未来へつながる浪漫」を追求することとした。結局、作曲期間は一年半に及んだ後に最終稿が2016年正月に完成。その3月24日に初演され、その後はNHKで全国放送、金子展寛氏の個展で再演されるなど非常に恵まれた船出であった。
 しかしながら、初演に際し多大な示唆を頂戴した操壽先生が2019年8月27日にご逝去された。御冥福を深くお祈り申し上げたい。
 ここ数年のコロナ禍にありながら、一周忌を記念しこの度の出版に道筋をつけてくださった野坂惠璃先生をはじめ多くの関係者の方々に心より御礼申し上げます。

*テキスト原文
和何則能尓  宇米能波奈知流  比佐可多能
阿米欲里由吉能  那何列久流加母

商品詳細

発売日 2023/9/11
サイズ 菊倍
ページ数 20
ISBN 9784909668851
楽器 ピアノ
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