ブルーの表紙でお馴染みのヘンレ社の楽譜の魅力を、ピアニスト・梅田智也氏の演奏とともに楽しむイベントが2025年4月まで全国のヤマハ直営店で開催されました。本稿では、そのスタートを飾ったヤマハミュージック福岡でのイベントの模様をご紹介。
――ビデオメッセージで開幕
2024年11月12日(火)、ヤマハミュージック福岡にて『ヘンレ社75周年記念 ピアノとヘンレ原典版の魅力にふれるトーク&コンサート』が開催された。本イベントは、ドイツ・ミュンヘンにある楽譜出版社G. Henle Verlag(ヘンレ社)の歴史と魅力を、ピアニスト・梅田智也氏の演奏とともに楽しめる90分の無料プログラム。初回にも関わらず、キャンセル待ちが出るほどの盛況ぶりで、関心の高さが伺えた。オープニングでは、このイベントのために特別に制作されたヘンレ社からのビデオメッセージを上映。日本の愛用者に向けた感謝の言葉と、現在のヘンレ社の取り組みが紹介された。

ヘンレ社社長のノルベルト・ゲルチュ氏、営業部長のズィグルン・ヤンツェン氏からのメッセージ
――世代を超えて受け継がれる楽譜
ビデオメッセージが終わると、ピアニストの梅田氏が登場。以前からヘンレ社の楽譜を愛用していると、自身の楽譜を2冊披露。ひとつは小学生のときに初めて購入したベートーヴェンの『ピアノ・ソナタ全集 第1巻』。もうひとつは、師匠から譲り受けたという年代物のハンセン校訂版だ。長年にわたって使い込まれており、「付箋を貼ったり、演奏した日や場所を書き込んだりして、自分だけの楽譜をつくるのが楽しみ」と、自身の楽譜の活用法も紹介した。

使い込まれた自身のベートーヴェンの楽譜を紹介
――ペライア版の魅力
最初に演奏した作品は、ベートーヴェン『ピアノ・ソナタ全集 第1巻』に収められている「ピアノ・ソナタ 第14番《月光》」。梅田氏はこの楽曲の演奏において、ハンセン校訂版と、アメリカのピアニスト、マレイ・ペライア校訂による《月光》の単曲ピースを併用しているという。ペライア版の魅力について、「自分では考えつかない指使いが書かれているので、異なる視点を得ることができて役立っている」とピアニストならではの解説。演奏が始まると、ヤマハのグランドピアノ「C3X espressivo」の豊かな音色が会場を包み、幻想的な響きで聴衆を魅了した。

ヤマハグランドピアノ「C3X espressivo」の豊かな音色が会場を包み込む
――版による違いを弾き比べ
続いてショパン「ノクターン第20番 嬰ハ短調 遺作」を取り上げ、演奏前には版の違いを解説するための弾き比べを披露。スラーのかけ方や表現の微妙な違いを示した後、続けてショパン「華麗なる大円舞曲」を演奏した。さらに、リスト「コンソレーション」やラフマニノフの《鐘》といった多彩な楽曲が奏でられ、ロマン派から近代作品まで幅広いプログラムを展開。「ヘンレといえば、ドイツ古典派というイメージをもつ方もいらっしゃるかもしれませんが、近年はラフマニノフやリストの楽譜もあるので、ぜひそちらにも注目してほしい」と語った。
最後は、ヴィルトゥオーソピアニストとしても名高いブゾーニ編曲の大曲、バッハ=ブゾーニの「シャコンヌ」を演奏。迫力と繊細さが共存する圧巻の演奏に、客席から割れんばかりの拍手が送られた。

そのほかにもヘンレ社の用紙や製本のこだわりも紹介
――ここでしか見られない貴重な楽譜も
ヘンレ社の楽譜はピアノ作品だけでなく、弦楽器や管楽器、オーケストラのスコアなど、緻密な研究に基づく原典版が多彩なジャンルで展開されている。今回のイベントでは特設ブースが設けられ、その豊富なラインナップを間近で楽しむことができた。
また、ヘンレ社を象徴するブルーの表紙の楽譜に加え、全集版の布装楽譜、携帯しやすい中型スタディ・スコア譜、さらに普段は目にする機会の少ない大判のファクシミリ版も展示。来場者は貴重な楽譜を手に取りながら、その細部にわたるこだわりや魅力を堪能していた。

お馴染みのブルーの表紙のものからファクシミリ版まで揃った展示ブース
ヘンレ社について

プログラム (使用関連楽譜)
◆ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 Op.27-2《月光》
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集 第1巻/原典版/Wallner編/Hansen運指 【輸入:ピアノ】(第14番 嬰ハ短調 Op.27/2 「月光」)
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 Op.27/2 「月光」/原典版/Gertsch & ペライア編/ペライア運指
◆ショパン:ノクターン 第20番 嬰ハ短調 遺作 《レント・コン・グラン・エスプレッシオーネ》
ショパン:ノクターン 第20番 嬰ハ短調(レント・コン・グラン・エスプレシオーネ)/原典版/Zimmermann編/Theopold運指
◆ショパン:ワルツ 第1番 変ホ長調 Op.18 《華麗なる大円舞曲》
ショパン:ワルツ 第1番 変ホ長調 Op.18 「華麗なる大円舞曲」/原典版/ツィンメルマン編/Theopold運指
◆リスト:コンソレーション 第2番 ホ短調 S.172-2
リスト:コンソレーション(初版と初稿)/原典版/Heinemann & Eckhardt編/Schilde運指
◆ラフマニノフ:前奏曲 嬰ハ短調 Op.3-2《鐘》
ラフマニノフ:前奏曲 嬰ハ短調 Op.3/2/原典版/Rahmer編/Hamelin運指
◆バッハ=ブゾーニ:シャコンヌ ニ短調 BWV1004
バッハ:無伴奏バイオリンのためのパルティータ 第2番より シャコンヌ/ブゾーニ編曲/原典版/Mullemann編
※演奏曲、曲順は変更となる場合がございます。
レポート:Sheet Music Store 編集部
プロフィール

ピアノ/梅田智也(うめだ・ともや)
岐阜県出身。5歳よりピアノをはじめ、これまでに奥村真、杉浦日出夫、長谷正一、西川秀人、東誠三の各氏に師事。愛知県立明和高等学校音楽科、東京藝術大学音楽学部器楽科ピアノ専攻卒業後、同大学大学院修士課程首席修了。修了時にクロイツァー賞、大学院アカンサス音楽賞、藝大クラヴィーア大賞受賞。修了と同時に、ロータリー財団奨学生としてウィーン国立音楽大学に留学し、M.ヒューズ氏に師事。
第62回全日本学生音楽コンクール全国大会第2位、第38回ピティナ・ピアノコンペティション特級銅賞、第12回東京音楽コンクール第1位並びに聴衆賞、リヴォルノピアノコンペティション(イタリア)第2位、第11回ラニー・シュル・マルヌ国際ピアノコンクール(フランス)第3位、第9回トレヴィーゾ国際ピアノコンクール(イタリア)第1位、第10回浜松国際ピアノコンクールにて日本人作品最優秀演奏賞を受賞など数々のコンクールで優勝、入賞を果たす。
小林研一郎、円光寺雅彦、広上淳一、大井剛史、岩村力、読売日本交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団など著名な指揮者、主要なオーケストラと共演。
A.ヤシンスキ、A.コブリン、J.ルヴィエ、B.L.ゲルバー、J.アチュカロ、M.J.ピリス等著名な音楽家のレッスンを受講し研鑽を積む。
2024年度愛知県芸術文化選奨文化新人賞受賞。
東京藝術大学非常勤講師(2019-2023)を務め、現在、名古屋芸術大学専任講師、京都市立芸術大学、愛知県立明和高等学校音楽科非常勤講師として後進の指導にも力を入れている。
ホームページ:https://tomoya-umeda.com