
「生徒がなかなか上達しない」「楽譜を読んでくれない」……そんな現場の先生のお悩みに解決策を提案する書籍、 『生徒が変わる!新しいソルフェージュ指導の教科書』。
ピアノの先生にもっとご活用いただくための、本書の使い方のコツを、著者の尾島未佳先生に伺いました。
1|ソルフェージュ指導の難しさとは?
ポイント①自信がある先生は5%だけ
ある論文によると、 現場の先生の中でソルフェージュ指導に自信がある方は5%ぐらいなのだそうです。つまり、95%の人は指導に自信がないとも言えます。
その原因として、 ご自身は苦労せずにソルフェージュを身につけられた先生は、生徒の「できない理由」がわからないということが挙げられます。 また、先生自身がソルフェージュを好きでない場合、あまり積極的にレッスンに取り入れないということもあるでしょう。 そういった理由でソルフェージュレッスンを積極的に研究せず、結果として自信を失っている先生は多くいるのです。
ほかによく聞くのは、 たった30分のレッスンの中で、ソルフェージュに取り組む時間を確保することが難しいということです。曲を弾かせることに一生懸命になってしまうと、楽しい楽譜の読み方や、音楽的感性をどう育てるかというところまで教えるのはなかなか難しいですよね。
ポイント②音符はひらがなと同じ?
ひらがなや言葉を教えていくときは、「これってこういうふうに読むんだよね」とか「指でなぞってね」と問いかけ、 伴走しながら学習を進めていきますよね。楽譜だって、同じように読み方を教えてあげなければ読めるようにならないのです。
「りんご」という単語を教えるとき、「皮が赤色なのも緑色なのもあって、中は白いね」とか、「皮は硬いけど中は少しやわらかいね」と説明するでしょう。楽譜を読むときにも、書いてある音符がどういう意味を持つのか、どう感じるのか、 といったところまで踏み込んで対話を重ねることが大切です。
2|生徒が夢中になるレッスンとは?
ポイント①問いかけはオープン・クエスチョン!?
「生徒が前のめりになるレッスン方法」を、 本書ではたくさんご紹介しています。生徒が「もっとやりたい!」と積極的になってくれると、先生側も教えやすいですよね。
生徒に前のめりになってもらうためにレッスンで意識すべきなのが、「クローズド・クエスチョンではなくオープン・クエスチョンにする」 ということです。
クローズド・クエスチョンとは、 「はい/いいえ」や選択肢などから答えられるような質問のことで、 オープン・クエスチョンとは、相手に考えさせる、もしくは自由に答えられるような幅を持たせた質問のことです。
音楽は本質的に「正解/不正解」だけで捉えきれるものではなく、私たちの受け取り方によって、 感じ方や表現が大きく変わる奥深いものだと私は考えています。
そのためレッスンでは、「合っている、間違っている」を確認するクローズド・クエスチョンで終わらせるのではなく、 生徒自身が音に対してイメージや意味を持てるようなオープン・クエスチョンが大切です。 ひとつの答えに収束しない問いを投げかけることで、生徒の中にある感覚や思考が自然と引き出されていくのです。
その際に重要なのは、 どのような答えであっても「一度受け止める」ことです。評価を急がず、対話を重ねることで、生徒の「自分で考え、音楽と関わる」姿勢が育っていきます。
ひとつの読み方を教えるのではなく、さまざまな角度から楽譜を捉える経験を積ませることで、生徒は楽譜に書かれている「音の背景」に目を向けられるようになるでしょう。ピアノに限らず、教育の目指す姿として、多角的な視点をいつも持ってほしいと願っています。
ポイント②コミュニケーションができる関係を築く
私がレッスンで一番大事にしていることは、コミュニケーションをする中で生徒についてよく知ることです。そして、生徒の興味関心をきっかけにして、ソルフェージュレッスンをしています。
その生徒が「ドレミ」という言葉を知っているなら、 最初は「ドレミ」のどれかがクイズの答えになるようにします。そうすると答えが返ってくる確率が圧倒的に高くなります。つまり、正しい答えを返してもらうよりも、まずは「コミュニケーションができる関係を築くこと」が大事なのです。
最初のレッスンでいきなり「これから楽譜を読めるようになりましょう」と言うと、心のシャッターを閉じてしまう子もいます。 コミュニケーションを重ねて信頼関係ができてからのほうが、心のシャッターが開いているのでオープン・クエスチョンにも答えてくれやすくなります。
3|先生のお悩みTOP5と、その解決策!
Q①:生徒が宿題をやってこない……。
A:レッスンでやったことを宿題にしよう!
よくやりがちなのは、 「今週はここができたね。じゃあ、来週はこれをやるから予習してきてね」という宿題の出し方。レッスンでやっていない部分を宿題にするとどうしてもおっくうになって、予習をしない生徒が増えてしまいます。
「家に帰ったときに生徒が宿題を思い出せること」が、とても大事なカギです。多すぎると思い出せないので、宿題はひとつかふたつにしましょう。
次の3つを意識してみてください。
新しい部分を一度レッスンでやってみる
宿題にしたい新しい部分を、ソルフェージュを使ってレッスン内で予習しましょう。楽譜を見せて、「ななめよみ」などをしてみて「それを家でやってきてね」と言うと、一度できた部分なので家でも取り組みやすくなります。
「どこからやりたい?」と選ばせる
「どこからやりたい?」「曲の中のこの部分とこの部分、似ているから取り組みやすそう! どっちから始める?」とヒントをもとに生徒本人に選ばせてあげて、その部分を宿題にしましょう。
曲の全体像を見せる
ゴールのないマラソンは誰だっていやです。「ここがゴールだよ、 今はここを練習しているね。 来週はここから始められるね。 じゃあここまで練習してきてね」と言えば、どこまで進んでいるかが常にわかるので負担感が減ります。
Q②:10回教えても、できるようにならない……。
A:数回でできないからって諦めないで!
当たり前のことですが、 生徒の成長速度はそれぞれ違います。定着するタイミングは予測できません。大事なことは何度でも、たくさんのパターンで教えてあげてください。
逆に「1回でできたから、もうわかっているだろう」と思うのも危険です。教育というのは、 らせん階段のようなものです。1回やってできたら終わりではなくて、2回目は違うやり方でやってみる。何回も同じところを通るほうが、確実に成長します。
覚えることと定着することは違います。 ただ覚えただけでは、時間をおくと忘れたり応用できなかったりしますが、定着すれば自分の肉になりますからもう絶対忘れません。
基本的には、定着するまでに1、2年かかるというスタンスで教えるほうがいいです。 そのほうが、1回でできなかったことにお互いイライラしなくて済みますしね(笑)。
Q③:保護者に、 ソルフェージュの重要性をわかってもらえない……。
A:「こういう力を育てている」と説明できるようになろう!
保護者の中には、「なぜピアノを弾かせないで、ソルフェージュをやるのですか? もっとピアノを弾く時間を増やしてください!」とおっしゃる方もいます。保護者はピアノを習わせたくてお子さんを通わせているので、自身がピアノを習っていた方でない限り、 ソルフェージュをやることに疑問を持つのも仕方のないことです。
私は実際に、 次の2つの方法で保護者に味方になってもらいます。
「ソルフェージュで身につく力」を説明する
「今、 生徒さんはこういうことが課題で、このソルフェージュの練習をするとこの力がつくのです」と言葉でしっかり説明できると納得していただけることがあります。
保護者もチームになってもらう
レッスンに付き添われる方がいらっしゃったら、 その方を巻き込んで、 生徒と保護者と3人でアクティビティをしてみましょう。送り迎えにいらっしゃる方の場合は、レッスン内容を共有し、「今週はこういう宿題を出しました。ぜひお家で一緒にやってみてください」と伝えてください。
チーム一丸となってひとつの目標に取り組むと、ソルフェージュの楽しさを知ってもらえることが多いです。保護者にもソルフェージュを「体感」していただくのが理想です。
Q④:レッスン内容が生徒に役立っているかわからない……。
A:先生自身が一度、 実践してみよう!
私が実施している先生向けのレッスン講座では、実際にレッスンで生徒に取り組んでもらっていることを、先生にもやってみてもらいます。すると決まって、「意外と難しいんですね!」というお声があがります。
体感するとわかりますが、本当に、意外と難しいです。言い換えれば、 簡単なように見える実践例にも、基礎力アップのためのエッセンスがたくさん詰め込まれているということです。そのエッセンスそれぞれを実感できていると、生徒にも教えやすくなります。
また、 中には「すごく楽しいです! これ、ソルフェージュなんですか?」というお声もあって、 そのお声をいただいたときはとてもうれしいです。 ソルフェージュは先生自身が楽しんで取り組むことで、その楽しさが生徒にも伝わります。
Q⑤:市場のソルフェージュ教本は、 どう教えたらいいかわからない……。
A:補助になるレッスン素材を自作してみよう!
教本は、ラインナップが豊富である一方でどれを選べばよいかわかりにくく、どの教材がどの生徒に合うのかを考えるのは意外と難しいですよね。
私は、市場にあるさまざまな教本もレッスンに取り入れますが、もっと生徒にレッスンを楽しんでもらえるよう、 レッスン素材を自作することもあります。
4|自作テキストを作成するときのポイント
私がこれまでに自作したレッスン素材をもとに、 自作テキストを作成するときのポイントをご紹介します。
ポイント①生徒にどんな力を身につけてもらいたいのかを考えながら作る
▲透明シートに目と口を書いたもの
これは、透明なシートに顔を書いたものです。このシートを五線譜と音符を書いた紙に重ねて使います。線の音と間の音を、五線譜で見分ける力を育てるための素材です。 目と口の間に線がくれば線の音、そうじゃなければ間の音、と視覚的にわかります。楽譜が読めない子は音符が今どこにあるか区別がつかないことが多いので、音符のいる位置がわかりやすいよう、顔をつけています。
ポイント②生徒自身に考えさせる構成にする



▲新春ソルフェージュイントロクイズ
これは、長期休みのときに生徒に渡した自作のテキストです。
「見て→考えて→想像して→納得する」というプロセスを大切にしているので、ヒントを少しずつ出す構成にすると、生徒が自分で考えやすくなります。
また、音やリズムを頭の中で鳴らしたり、実際に叩いたり歌ったりすることで、「なぜこのように楽譜に書かれているのか?」という問いに自然と興味が向くように設計しています。
ポイント③わくわくするデザインで、 積極的に取り組みやすくする



▲「譜例&リズムの謎を解く5つの冒険」
こちらのテキストは、 生徒が積極的に取り組めるよう、「冒険」という興味を引くワードを使い、秘密の地図のようなデザインで作ったテキストです。
読譜、リズム、音感の要素を段階的に意識したあと、自分の楽譜を見て考えられるような構成にしています。これは、生徒だけでなく先生自身が取り組んでみても、 教え方の参考にしていただけます。
どの教材でも共通しているのは、「楽譜をひとつの地図として捉え、 その中から何を見つけられるか」という体験を大切にしている点です。私が新たにワークを作成するときは、 歌ったり動いたりして「体感」したことを、 どれだけ楽譜の中から見つけ出せるか、という“宝探し”のような視点を軸にすることを常に考えています。
ただ闇雲に探すのではなく、 ヒントや手がかりとなるものを楽しく学びながら、少しずつ見える世界を広げていく。 その過程こそがソルフェージュの役割であり、生徒の目が輝く瞬間を生み出すものだと思っています。 そのような経験が演奏時の表現にも自然とつながり、また一人で楽譜に向き合ったときにも、受け取れる音楽の世界が大きく広がっていくのです。
「どんな教材を使って教えたらいいかわからない」とお悩みの先生には、 こうして教材を自作してみることをおすすめします!
5|本記事で紹介した書籍
生徒が変わる!新しいソルフェージュ指導の教科書
著者:尾島未佳
仕様:A5判/160ページ
定価:2,530 円(税込)
ISBN:978-4-636-12078-3
発売日:2025年12月26日
生徒の課題がわかるし、ソルフェージュの教材はたくさん持っているけれど、どう指導したらもっと生徒が楽しんでくれるかわからない……という先生へ。
この本を読んでレッスンを少し工夫することで、生徒のやる気と自主性を引き出し、「もっとやりたい!」「音楽が楽しい!」の声があふれてきます。
基礎的な知識を授ける理論編と、現場で聞いた実際の悩みに解決策を示す実践編。
たくさんのレッスンの実践例から、まったく新しいメソッドまで。
レッスンがもっと楽しくなるヒントを受け取ってください。
[目次]
はじめに
この本の使い方
第1章 ● ソルフェージュの3本柱
第2章 ●「読譜力」を鍛える指導法
第3章 ●「リズム感」を鍛える指導法
第4章 ●「音感」を鍛える指導法
第5章 ●「暗譜力」を鍛える指導法研究·実践に基づくソルフェージュ教材例
プロフィール
尾島未佳 (おじま・みか)
Daisy Music Academy代表。武蔵野音楽大学大学院ピアノ専攻修了。
延べ2万人以上の子どもたちにソルフェージュを指導してきた経験をもとに、歌って楽譜が読めるようになるオリジナルメソッド「うたハノン®︎」を開発。武蔵野音楽大学付属音楽教室での指導経験を軸に工夫を重ねた独自の指導法に注目が集まり、指導者向け講座にはこれまでに延べ1,000人以上が参加。「生徒が変わった!」という喜びの声が寄せられている。現在はDaisy Music Academyを主宰し、全国の指導者に向けた講座や、国内外の生徒から寄せられる「楽譜が読めるようになりたい」という声に応えるソルフェージュレッスンを展開。生徒の音楽基礎力の向上と、楽しさを実感できる音楽教育の普及を目指している。
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