<まえがき> 「難しい楽典の説明は不要。普遍的な理論書ではなく、わかりやすく、親しみやすく、なるほど!!の、なかにしメソッドを」という企画の趣旨を果たせているかどうかは、読者の皆様の判断にお委ねするしかありません。 告白致しますが、私は、普段作曲する時に、このエクササイズでやっているような手順を全部踏んでいるわけではありません。ことばを受け止め、音を紡ぎ出すまでの間に、心と脳の中で起きていると思われることの一部を取り出して丁寧に説明してみた、というのが近いかも。 3巻の内容の中には、宮城学院女子大学音楽科文化系応用制作専攻の学生達との日々の蓄積も含まれています。ロンドン留学を終えて仙台に赴任した2000年4月から、改組により最後の卒業生を送り出す2019年3月まで、大切に向き合った学生達・・・まじめで、意欲的で、すべてが新鮮な、素晴らしき表現者達・・・ひとりひとりに、どういう切り口でどう助言すれば、彼女達自身が自らの音の世界を切り開くことができるだろうかと考え、工夫してきたものの一部です。すべての学生達に感謝を捧げます。また、各地の歌曲セミナーや合唱講習会などで出会った指導者、歌手、ピアニスト、合唱団の皆様とのやりとりの中で、絞り出し、編み出した説明もあります。音楽は現場で起きていると日々新たに感じます。たくさんの出会いに、心から感謝致します。 毎回書きますが、「楽譜が読める」ということは「ド」が「ド」と読める、ということではありません。日本語の「あ」を「あ」という記号であると認識できることと、文章の読解力や表現を感じ取る力は、全く別のものであるように、「読譜力」とは、楽譜の記号の羅列から、生きた音楽を読み取ることができる力です。平面の楽譜から生きた音楽を立体的に立ち上げるのが演奏家の仕事であり、作曲家は、その演奏家の渾身の作業に応え得る楽譜を提供することに、最善を尽くすのです。このエクササイズがそのためのささやかなヒントになることができましたら、この上ない喜びです。 では、第3巻完結編のスタートです! Just relax and enjoy what you do!