エレクトーン曲集『WORKS3』発売記念 安藤ヨシヒロに聞く!名曲たちの制作秘話と、“今”。

 

エレクトーンプレイヤーとして多くの⼈々を魅了し、現在は作曲家、キーボーディスト、そしてプロデューサーとしても活躍を続ける安藤ヨシヒロ。彼のオリジナル作品を集めたエレクトーン曲集である『WORKS』シリーズに、2025年2⽉18⽇、待望の第3作⽬『WORKS3 〜from "SORA""mindscape<<5"』(『WORKS3』)が加わった。
名曲が世に放たれてから⼗数年たった今、楽曲の制作秘話や作品への思い、安藤ヨシヒロ⾃⾝の”今”について語ってもらった。

――『WORKS2』から約5年ぶりとなる新刊『WORKS3』が発売となりました。楽譜集『SORA』から収載された3曲(「サクラ」「天上の光」「祈り」)は新たに02シリーズ対応のレジストを制作されたそうですが、改めてご⾃分の楽曲と向き合ってみていかがでしたか?

 曲は⼗数年前に作ったものなのですが、今回収載するにあたって、新鮮な気持ちで取り組めました。どうしたら02できれいに⾳が鳴るだろうか試⾏錯誤しながら制作しましたね。⾳⾊を変えたことで曲の雰囲気に違和感が⽣まれたり、「前の⽅がよかった!」となったりしないよう、進化させたいという気持ちで作りました。
15年前も、01でどんな⾵に⾳を鳴らすかを⼀⽣懸命考えながら編曲したのを思い出しました(笑)。

安藤ヨシヒロインタビュー(1)
楽譜集『SORA』

――『SORA』は安藤さんの初メジャーアルバムですが、それまでとは違う挑戦があったのでしょうか。

 『SORA』は全体を通してストリングスとピアノ中⼼のサウンドにすると決めて作ったアルバムでした。そんな⾵にコンセプトを決めてアルバムを制作するのははじめてだったんです。それ以前に作ったアルバム『mindscape』シリーズは、好きに作った曲をキュッとまとめる形だったため、『SORA』の制作⼿法は慣れないものでした。弦楽器をフルで収録したのもはじめてで、ああでもないこうでもないとたくさん悩みながら楽譜を書きましたね。エレクトーンはほかの楽器と異なり、演奏しているとさまざまな楽器の⾳⾊に触れます。そうするとひとつの楽器だけじゃなくて、いろいろな⾊のパレットが⾃分の中に⾃然と増えていきます。『mindscape』ではそのパレットから好きな⾊を選んで曲を作って……ということをしてきました。でも『SORA』はコンセプトを決めたことで、⾳⾊的な制約があったのです。その点も、それまでと⼤きく違うところでした。

――そのようにコンセプトを決めて制作されたのはなぜだったのでしょうか?

 いろいろな⾳⾊を使えると、カラフルにはなるのですが、演奏している⼈が⾒えづらくなってしまいます。エレクトーンを知らない⼈が聴いたら、「安藤ヨシヒロ」が何をしているのか、どんな⼈物なのかが⾒えない。だから鍵盤楽器はピアノと決めて、それを「僕」が演奏、プラス弦楽器の⼈がいる。つまり、「⼈がちゃんと⾒える」ように意識しました。制約があったからこそ実現できたと思っています。その制約の中でも「⾃分らしさ」を出したかったので、プロデューサーをはじめいろんな⽅と相談しました。

――『SORA』の制作には多くの⽅が関わっていたのですね。

 最初のアルバムは全部ひとりで作っていました。⾃宅のシンセやエレクトーンで作曲して、それをスタジオに持って⾏ってひとりで編集作業をして。でもエレクトーンプレイヤーとして活動していく中でたくさんのミュージシャンに出会って、楽曲制作に少しずつ参加していただけるようになりました。『mindscape<<5』はもっとも多くの⽅に携わってもらった、僕の活動の中での集⼤成のようなアルバムです。⾃分たちでできることは全部やって、参加して頂いたミュージシャンの⽅たちと全員で作り上げました。スタジオでは⾃分たちでマイクスタンドを⽴てたりして、練習して、レコーディングして……楽しかったですね。今でも作れてよかったなと思う作品です。

安藤ヨシヒロインタビュー(2)
楽譜集『mindscape<<5』

――その『mindscape<<5』から、はじめて「FLY HIGH」が収載されますね。

 はい。「FLY HIGH」には「Symphonic ver.」もありますが、元々はこのバージョンが先に出来上がっていたのです。今回収載したノリがいいバージョンは後からできたのですが、バージョン名をなんとつけたらいいかわからなくて(笑)。結局、「バージョン名はつけなくていいよなぁ」ということで今の形になりました。

――逆だったのですね……! ポップなものを作ってからその後にオケバージョンを制作 するのが⼀般的な⽅法だと思っていました。

 そうなんです。先に、とは⾔っても同時期に作っていたもので、「FLY HIGH(Symphonicver.)」はジュニアエレクトーンフェスティバルのテーマ曲として、ノリがいい「FLY HIGH」はエレクトーンステージのテーマ曲として作りました。「FLY HIGH」は直訳すると「⾼く⾶ぶ」ですが、「⼤志を抱く」という意味も持つ、とても前向きな⾔葉です。出演者の後押しをしてくれて元気になれるような、⼒のある曲にしたいと思って作曲しました。

 実はどちらの曲もループできるようになっているんです。どんどん転調して、最後まで⾏ったら冒頭と同じ調になって戻る、ループできる構造になっています。そういう⾵に、曲の⾏き先を考えながら作っていました。

――本当ですね! 何回も聴いていたはずなのにはじめて気づきました(笑)。他の楽曲についてはいかがでしょうか?

 僕は桜の花がすごく好きで、毎年お気に⼊りの桜のスポットに⾏って、写真を撮っています。ガラケー時代からずっと続けているんです。桜は卒業シーズンに咲く花でもあるので、⼈によっては別れの悲しいイメージがあるのかもしれませんが、僕はすごく⼒をもらえる花だと思うんです。寒い冬を乗り越えて、少しずつつぼみが開いていく。そこにすごいパワーがあるように感じて。それをイメージして「サクラ」を作りました。

 「祈り」は誰にでもある何かを願う瞬間、とても⼤事でかけがえのないそんな時間を表現できたらと思いました。この曲を聴いていただいて、気分を落ち着かせたり、何かを祈る時間にしてもらったり。そんな⼤切な時間の流れというイメージで作りました。

「天上の光」はもう少し映像的なイメージです。⿊い、暗い雲が割れて、その隙間から⼀筋の太陽の光がこぼれてだんだん広がっていって。それを⾒上げる⾃分が少しずつ光に包み込まれて……というイメージがありました。
そういうアニメありましたよね? なんだっけ……『フランダースの⽝』!

――ああ、最終回のシーン! 天使が現れて……

 そうそう、天からの光が降り注ぐ……というイメージの曲ですね。そのように具体的な情景 を思い浮かべたり、その状況にあった時の気持ちを込めたりできたらと思って曲を作って います。

 「Sunny」はとても明るい曲です。太陽と⽩い雲が浮かんでいて、そこを⾃転⾞で颯爽と駆け抜けていくような。そういう情景のさわやかさを表現しています。

 「Pandora」は、実は『SORA』を作った時にはすでにAメロができていたのですが、しっかり作りたくて改めて取り組みました。⼆胡が⼊った、オリエンタルな雰囲気になっています。「パンドラの箱」からタイトルをつけました。パンドラの箱の中⾝は「災い」だったという説と「幸せ」だったという説があるんです。その相反するものが出てくる時の混沌とした感じ、その⾏先は誰も知らない、というようなイメージが、曲を作った時のイメージと合致して、「これだ!」と思いました。

 『SORA』に収載した曲は内⾯的なものが⾊濃く出ていますが、『mindscape<<5』に収載した曲は放たれる感じが強いですね。込められた思いというよりは発散されるもの、というイメージです。

安藤ヨシヒロインタビュー(3)
楽譜集『WORKS』シリーズ

――楽曲から少し離れて、安藤さんご⾃⾝のことを聞かせてください。最近のご趣味はなんでしょうか?

 そうですね、コロナ禍以降料理をよく作るようになりました。元々料理は嫌いではなかったのですが、動画サイトで海外の料理番組を⾒ていたらものすごくパンを焼きたくなったんです(笑)。形から⼊るタイプなので、まずパンを焼けるオーブンレンジを買いました。次は⾓煮が作りたくなって、電気圧⼒鍋を買って。で、挽きたてのコーヒーっていいよね、と思って今度はコーヒーメーカーを買い。それで昨⽇、ホームベーカリーがうちに届きました(笑)。

――ついに! 4年越しのパン(笑)

 そうです! ついに(パンを)焼くぞと……(笑)。
今うちは調理家電が充実してますね。楽しいです。

< 安藤さんお手製のお料理 >

04
水菜の豚肉巻き
05
ローストビーフ
06
ピーマンのきんぴら
07
パウンドケーキ

 

――安藤さんのX(旧Twitter)を拝⾒しましたが、最近「せいろ」を買われてましたね!ここ4年で料理のレパートリーも増えたのではないでしょうか。

 そうですね……増えたのですが、「せいろ」で野菜を蒸すだけでおいしいから「これでいいかな……」なんて思ったりもして……。でも、家にいられる間はなるべくいろいろな料理を作れたらいいですね。
早速昨⽇届いたホームベーカリーで何かやってみようかな。来年のお正⽉は(ホームベーカリーを使って)⾃分でお餅を作っているかもしれません(笑)。

 あとは観葉植物ですね、家にたくさんあります。友⼈がサボテンなどの多⾁植物が好きで、それを勝⼿に寄せ植えさせてもらったのがはじめたきっかけです。それに癒されて、僕も⾃分でホームセンターの植物コーナーに⾏くようになりました。値段もすごく⾼いものから安いものまでいろいろあって、これなら⼿軽にできるなと思って。で、始めてみたらどんどん増えて、今はもう100弱くらいの鉢が……ベランダにも部屋の中にもあります。

安藤ヨシヒロインタビュー(8)
安藤さんのご自宅の様子

――以前X で作業スペースの模様替えの様⼦を拝⾒しましたが、周りにグリーンがたくさんあって素敵でした。

 あの時よりもさらに増えました(笑)。家の中にグリーンがあると明るくなってとてもいいですよね。お花もあったらいいなと思うんですが、グリーン(観葉植物や多⾁植物)にもお花って⼩さく咲くんです。グリーンのグラデーションの中に、たまに明るい⾊のお花が咲いているのを⾒つけるとうれしくなります。多⾁植物のお花がけっこうかわいいんです。

――エレクトーン以外で楽器を演奏することはあるのでしょうか?

 鍵盤楽器だとピアノや鍵盤ハーモニカを弾きます。⼤昔の話だと、⼩学⽣の時に⿎笛隊で2年くらいトランペットを吹いていました。「ドレミファソラシド」くらいは覚えています(笑)。かっこいいですからね、トランペット。やってみたかったんでしょうね。

――その頃にはエレクトーンは始められていたのでしょうか?

 はい、7歳の頃に始めました。ひとつ上の姉がピアノを習っていたのですが、それについていったら⾃分もやりたくなって。ちょうど家に⺟の知⼈から譲り受けた古いエレクトーンがあって、それがエレクトーンを弾き始めたきっかけでした。エレクトーンは⾜にも鍵盤があるからかっこいいと思ったんでしょうね(笑)。
その頃はしっかりとした⾳楽教育を受けていたわけではなくて、楽しい習い事というよう な感覚でした。続けていく中で少しずつ本格的になって、グレード7級・6級の試験を受け、中学⽣の頃には違う先⽣のもとでグレード5級のレッスンを受けるようになりました。

――それから現在に⾄るまで、ずっとエレクトーンを弾き続けていらっしゃるんですね。安藤さんにとって、エレクトーンはどんな存在でしょうか。

 エレクトーンプレイヤーとして活動していた頃、エレクトーンを⾃分の⼿のように思っていました。演奏活動から離れた今は、僕が表現したいことや、持っているイメージを具現化してくれる素敵な相棒です。7歳の頃から僕の⼈⽣にずっと寄り添ってくれています。

――安藤さんがエレクトーンプレイヤーとしての活動を終えて10年が経ちます。その間にたくさんのことにチャレンジされてきましたが、これから新たに挑戦してみたいことはありますか?

 2027年には⾳楽活動30周年を迎えます。そこに向けて、記念となるアルバムの制作やライブ活動をなんとなく考え始めています。⻑らく⾃分の曲を⾃分で弾く機会もなかったので、何かできるといいなと思います。

――楽しみにしているファンがたくさんいらっしゃると思います!では、そんなファンのみなさまにメッセージをお願いします。

 今回発売する『WORKS3』に収載されている楽曲は⼗数年前に制作したものですが、僕にとっては今でもすぐそばに寄り添ってくれているように感じられる曲たちです。たくさんの⽅に『WORKS3』を⼿に取ってほしい。そして弾いて⾳を体感して、僕の楽曲を⾝近に感じてもらえたら、うれしいです。
これから先、⻑くみなさんのそばにこの楽曲たちが在れば幸せなことです。

 

 

聞き⼿:Sheet Music Store 編集部

 

本記事で紹介した商品

STAGEA パーソナル 5~3級 Vol.69 安藤ヨシヒロ10 『WORKS 3 ~from “SORA”“mindscape<<5”』

STAGEA パーソナル 5~3級 Vol.69 安藤ヨシヒロ10 『WORKS 3 ~from “SORA”“mindscape<<5”』

(発行:ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス)


発売日:2025年2月18日
仕様:菊倍判縦/64ページ
定価:3,190円(税込)
ISBN:9784636119770

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プロフィール

安藤ヨシヒロ

安藤ヨシヒロ

作曲家、キーボーディスト、Producer
1974年11月30日生まれ。愛知県出身。国立音楽大学卒。
インターナショナルエレクトーンコンクールʼ96で第1位を受賞後、全国各地に加え韓国・中国・台湾・香港・マレーシア・シンガポール・タイ・メキシコなど海外でもコンサートを行う。美しいメロディーと固定枠にとらわれない独自の表現力には定評があり、現在までに8枚のアルバムを発表。ʼ18年にはクラウドファンディングによるプロジェクトの成功により、自身初となるオーケストラアルバムを発表。
現在は作曲家として活動し、これまでにNHK『すてきにハンドメイド』『きょうの料理』、NHKスペシャル『遷宮』DVD-BOXなどへ楽曲提供や、TV朝日のドラマ『濃姫』、映画『恋する♡ヴァンパイア』の劇伴など様々な音楽制作や、ヒーリングアルバムの制作、アーティストへ作編曲提供も行っている。

大阪音楽大学特任准教授、国立音楽大学非常勤講師、洗足学園音楽大学非常勤講師。


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