日本のみならず世界的に活躍する唯一無二の歌い手、Adoの人気曲を6曲収載したエレクトーン曲集が5月に発売される。スコア・プロデューサーに富岡ヤスヤを迎え、窪田宏、鷹野雅史、倉沢大樹、高田和泉、中野正英という豪華アレンジャー陣が集結した本作のリリースを記念し、各人の並々ならぬこだわりを紐解く鼎談(ていだん)が『月刊エレクトーン』に連続掲載される。
その第一弾となる『2025年6月号』の「窪田宏×富岡ヤスヤ×鷹野雅史 スペシャル鼎談」より、本誌で掲載しきれなかった制作秘話を中心に曲集の魅力を語っていただいた。
――今回のAdoのエレクトーン曲集は、富岡ヤスヤ(yaSya)さんが“スコア・プロデュース”という立場で入られていますね。理由はやはりAdoの大ヒット曲「唱」と「踊」の作編曲者TeddyLoid[テディロイド]さんとの師弟のご縁からですか?
富岡TeddyLoid(当時はTEDDY)とは2005年に出会って、プロデュースしている〈うにとろプロジェクト〉のメンバーとしてツアーをしたり、2年ほど一緒にユニットでライブ活動もしていたんですが、その頃はエレクトーン教室の生徒だった彼と昨年、雑誌の取材で十数年ぶりに再会して。Adoの「唱」「踊」が動画再生2億回超えなど音楽プロデューサーとしてもDJとしても世界的に活躍するスゴいアーティストになっているのに、久しぶりに会ったら一気に時を超える感じで。
彼の曲はいつもチェックしていて、「踊」をアレンジして弾こうかなと思っていたこともあったんです。そこにAdoの曲集の企画が舞い込んできて、今までにない曲集を作ろうとスタートしました。
――その再会の様子は、『月刊エレクトーン24年8月号』巻頭特集でも語られていましたね。それが〈運命の再会〉になったわけですね。“スコア・プロデューサー”は、具体的にはどんなことをされたのですか?
富岡一番大きいのは、“今までにない曲集を作ろう”と決めたことですね。TEDDYとの縁でこのAdoの曲集を企画できることになったので、だったらいままでの概念をぶち壊すくらいのスゴい曲集ができないかと考えて、それで出てきたのが「トッププレイヤー6名が1曲ずつアレンジする曲集」というアイデアです。そんなドリーム・チームの曲集なら自分も欲しいなと。
――メンバーの人選や選曲は、悩まれたのではありませんか?
富岡自分はTEDDYの「唱」と決めていたし「踊」も絶対に入れたかったんですが、ほかにも魅力的な曲がたくさんあって選曲は正直悩みました。でも最終的には〈インストにアレンジした時に映える曲〉という観点で決めて、結果的にベストな選曲になった気がしています。
屏東香(ピントンシャン)というユニットでも活動している窪田宏先輩と鷹野雅史は最初から絶対に口説き落とそうと決めていたのですが、学生時代から付き合いの長いこの二人と違って、倉沢(大樹)くん、高田(和泉)さん、中野(正英)くんは、霊感?ひらめき?...というレベルかもしれません。プレイヤーとしては何度も一緒にステージで演奏しているんですが、それぞれの音楽性まで完璧に把握しているわけではないので、「きっと面白くアレンジしてくれるはず!」という期待と「この曲の引き出しはあったかな?」という不安が交差しながらのオファーで、ある意味“賭け”だったんですが、これが見事に大正解!で、宝くじを当てたような嬉しさがありましたね。出来上がってきたアレンジを聴くたびに「ヤッター~~!!」と思いました。
――アレンジ内容についても、いろいろオーダーされたのですか?
富岡“ここをこうしてほしい”なんて話は全くなく、プレイヤーの皆さんに全部お任せしました。というのも、具体的に示してしまうとその方のアレンジではなくなってしまうので、方向性は一緒に相談しても、具体的なアイデアはあえて出さないようにしていました。

――富岡さんからお二人へのオファーは、どんな感じで進めたのでしょうか?
富岡まずは窪田さんと鷹野に“仕事をお願いしたいんですけど...”ってZoom飲み会をしまして。とにかくこの二人を口説き落とせば、他の人はノーと言えないなと思って(笑)。
鷹野絶対にノーと言えない空気をうまいこと作るんだ、富岡は。
富岡それで次の人にオファーする時に、“あとはあなたがOKすると6人揃います”って1人ずつに話して(笑)。倉沢くん、高田さん、中野くんは、全員、同じ話を聞いてるはず(笑)。
鷹野そういうの上手すぎるよ。
富岡いやいや、もう詐欺かもしれない(笑)。
鷹野でも素晴らしいね。最終的には実現しちゃったもん。
富岡その6名が、まったくの偶然なんですけど、三木楽器が3月に開催したエレクトーンコンサート『HIT PARADE』のメンバーとも一致してたので、コンサートの打ち上げが決起集会みたいになりました。
窪田あの日は富岡がハイテンションだったよね。
鷹野でも富岡の覚悟が見えたよ。
富岡アレンジ面ですごく難しいお願いをしていいた中、みんなに頑張ってもらったから絶対に文句を言われる、もう自分が非難の的になろうと思っていたんですけど、そういうことを言う人は一人もいなくて。それがもう嬉しくて、これは絶対に良いものにして全員出演の公開講座をやらなきゃと思って。
――「アレンジ面での難しいお願い」というのは、どういうことでしょうか?
富岡今回、みなさんには「アレンジテーマ」として「原曲のイメージ」と「アレンジャーの個性」の両立を狙いたいんですと伝えていました。「原曲を尊重しつつ、自分らしさも出す」、この絶妙なバランスのアレンジが意外と大変だったんです。実際に、中野くんは個性を出し過ぎて方向性を大きく変えてもらうことになったり。鷹野のように、逆に原曲に忠実にしすぎて、やり直してもらうことになった曲もありました。自分も、真正面から原曲と向き合って“エレクトーンでどう表現しよう!?”とものすごく焦って、そこからが本当に大変だったんですね。
鷹野最初、僕は原曲に忠実にアレンジすることを極端に解釈しちゃったから、オーケストラ色はあまり出せないなと思って。富岡から“もうちょっと鷹野らしさを出していいんだよ”と言われて、アレンジし直したんです。キーやテンポ、構成を変えなければ、メロディーが弦楽器だっていいじゃないかと。
富岡“これぞ鷹野だ!”ってものがきっとできると励ましたんですよ。でもよくよく考えてみたら、自分がスコア・プロデューサーという立場であることをみんなに伝えていなかったので、勝手に鷹野にアドバイスした状態になって、“何で偉そうに言うんだ”みたいな雰囲気に(笑)。
鷹野富岡がスコア・プロデューサーであることを知って、こちらも大人げなさが恥ずかしくなってきて(笑)。富岡に会ったときに、開口一番から謝られまくって困ってしまいました。
――皆さんは、お互いのアレンジを聴きあっていかがでしたか?
富岡「阿修羅ちゃん」は、あの疾走感が窪田さんのオリジナル作品と共通点があって違和感がなかったですね。
鷹野スピード感がね、先輩のイメージと合ってるなって。僕もオーケストラ・アレンジを生かせる曲で、自分らしさを出すことができました。
窪田やっぱりそれぞれの個性が出ているアレンジだよね。
富岡今回は「原曲」を大切にしながら自分の「個性」も発揮したいというすごく難しいテーマがあったけど、仕上がったアレンジを聴いたらみんな想像をはるかに超えたアレンジで、結果的にこうしたチャレンジテーマがあったからこそ、みんなメチャクチャ工夫してこんなに面白いアレンジができたんじゃないかと思いましたね。チャレンジ大成功!
――TeddyLoidさんからは、「唱」のアレンジについて何かコメントはありましたか?
富岡とても温かいコメントをもらいました。アレンジの細部についても一つひとつ感想をくれて。いやもう泣きそうでしたよ。すごい優しいやつなので。
TEDDYからは曲集の巻頭にもメッセージをもらったんですが、あらためて彼の人としての大きさに胸打たれましたね。彼のメッセージには、今回の曲集を出す意味が込められている気がして、多くの人に届けたいこの曲集の宝物をまた一つもらったと思いましたね。
――「唱」は難易度〈星1つ〉を目指していましたが、2つになったそうですね。
富岡できるだけたくさんの方に弾いてもらいたいと思って〈星1つ〉を目指していたんですが、見かけは白玉(2分音符、4分音符)も多くて易しそうでありながら、特殊な奏法もあるので星2つになってしまいました。でも、今回の曲集には「参考演奏」があるので、アレンジ内容の把握はすごくしやすいんじゃないかな。特殊な奏法も耳で覚えられるのでトライしやすいはずです。
――「参考演奏」が上級者用の曲集で発売されるのは10年ぶりくらいだそうですね。 CD用ではなく、STAGEAの楽器本体で再生して聴く演奏データということで、特別な苦労はありましたか?
富岡この質問は「よくぞ尋ねてくれました!」ですね。実は、この「STAGEA用の参考演奏データ」を作ることが、思いのほかとても大変だったんです。
プレイヤーはふだんステージで演奏していますが、ほとんどの場合、PAを通して会場のスピーカーでSTAGEAの音を流すことになるんですね。楽器本体のスピーカーからプレイヤーの演奏が流れることは、ほぼ無いと言っていいと思います。その意味で、今回の「参考演奏」はとても貴重なんですが、その貴重なデータを作ることが困難を極めました。というのは、Adoさんの原曲は凝りに凝ったサウンドのものが多くて、STAGEAのレジストもいろいろな音が複雑に絡み合って厚くなっているところに、プレイヤーが渾身の演奏をするので、音量レベルを計る特殊なオーディオ・メーターがあるのですが、その針が音割れを示すレッドゾーンに入ってしまうんですね...。でも、ボリュームを全体に下げればいいという単純な問題でもなく、十分な迫力がありつつも音割れしないベストなバランスを探すことに、各プレイヤーがものすごく情熱を傾けて取り組みましたね。自分の「唱」も相当苦しみました。
鷹野僕は、富岡が事前に“こうしたら解決するよ”って助言をくれたじゃない。それを参考に準備したから、仕上げることができた。飛び出ている音のボリュームを1つ下げるといいとか、デジタルノイズ系に反応しちゃうこともあるから、そういうところはリズムのリバーブを下げるとか、具体的にアドバイスをくれたから方向性が見えた。助言がなかったら一日で終わらなかったと思いますね。
富岡あのオーディオ・メーターとの格闘が、実はこの曲集の中の最難関だったかもしれないね。
――ところで、この豪華プレイヤー6名で「公開講座」を計画されているそうですね?
窪田7月30日に神戸、8月1日に東京で行う予定です。今回の講座は、普通の曲集講座では当たり前すぎるということで、ライブハウスですることにしています。まず楽譜に沿って弾いてから解説して、最後に同じ曲を楽譜にとらわれずに演奏。2倍楽しんでもらおうと計画しています。ライブパートは暗譜しないといけないのかな?
富岡そうですね。
鷹野違うことを平気で弾きそうな気がして怖いです(笑)。
富岡ライブでは、個人的にタブレットを見ながら弾くのはナシにしたいなと思っていて。カシオペアとかT-SQUAREはすごく難しい変拍子やコード進行を全部暗譜してライブで演奏するじゃないですか。だからそれがエレクトーンのライブでも基本になってくれたらいいなと。ってことで、先輩が弾き始めたら横から近づいてスーッて譜面を抜きますから(笑)。お前!と思っても怒れないですもんね。
鷹野エレクトーンは両手両足が塞がってますからね(笑)。窪田さんはもうライブで「阿修羅ちゃん」を披露したんですよね?
窪田うん。いま一番輝いてるAdoの曲をいろいろなイベントで弾きたい人も多いと思うし、実際にたくさん弾かれると思うんだよね。
富岡これから、自分たちもライブでどんどん演奏していくことになりそうですね。
――最後に、この曲集がこれまでの曲集と違う点を教えていただけますか?
富岡プレイヤー6名が1曲ずつアレンジするというスタイルは斬新ですし、「参考演奏付きレジスト」があるのも画期的なことですけど、もう一つこれまでの曲集と大きく違うところが、「対応機種」を「ELS-02シリーズ」と「ELC-02」に絞っていることですね。途中までは「01シリーズ」にも対応するようにアレンジを進めていたんですが、STAGEAの限界に挑戦していくうちにこれはもう「02シリーズ」に絞って考えないと成立しないなと。結果、驚くようなアレンジがたくさん生まれたので、ぜひ楽しんでいただきたいです。
それから、今回の曲集は最後のページ、楽譜のウラ表紙の裏側になるんですが、そこに全員の写真が載っています。このページは実は「サイン用のページ」でして、6名のプレイヤーのライブに足を運んでくださったお客様にサインをプレゼントできるように用意したページなんです。夏の講座で全員にサインをもらうこともできるでしょうし、6名のライブに通って一人ずつサインをもらっていく楽しみもあると思います。
曲集は上級用の「5~3級」なので、まだ難しくて弾けないという方は、楽譜を見ながら「参考演奏を聴くだけ」でもいいかもしれませんし、「参考演奏」の右手をOFFにして自分で弾いて、僕たちプレイヤーと疑似セッションなんていう楽しみ方もできるんです。
すごくいろいろな楽しみ方ができる曲集だと思うので、一人ひとり好きに楽しんでもらえたら僕たちみんなとても嬉しいですね。
Interview&Text:溝口元海
本記事で紹介した商品
『STAGEA アーチスト 5~3級 Vol.51 Ado Electone Score produced by yaSya』
(発行:ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス)
発売日:2025年5月23日
仕様:菊倍版縦/80ページ
定価:3,520円(税込)
ISBN:9784636120097
【収載曲】
1.阿修羅ちゃん(Electone Arranged by 窪田宏)
2.唱(Electone Arranged by 富岡ヤスヤ)
3.新時代(Electone Arranged by 鷹野雅史)
4.クラクラ(Electone Arranged by 倉沢大樹)
5.踊(Electone Arranged by 高田和泉)
6.私は最強(Electone Arranged by 中野正英)
【対応機種】
ELS-02C/ELS-02X/ELS-02/ELC-02
※この曲集は【ELS-02シリーズ】【ELC-02】専用です
※別売対応データは【参考演奏付レジスト】【レジストのみ】の2種類
プロフィール

[くぼた・ひろし]
音楽家の父の元、幼少時代から音楽に親しむ。1979年に作曲・演奏活動を開始、1984年レコードデビュー。2000年には全米デビューも果たし、ソロ活動はもとよりジャズ/フュージョン界の名手たちとの共演など第一線を走り続けている。STAGEA 02シリーズ用にブラッシュアップされたベスト曲集『WORKS 1』『WORKS 2』(小社刊)が好評発売中。

[とみおか・やすや]
世界を股にかけるエレクトーンパフォーマー。優れた音楽センスと圧倒的ライブパフォーマンスで絶大な人気を誇り、アレンジャー/コンポーザーとしても活躍。1998年、長野冬季オリンピックにてモーグル競技でライブ演奏を披露。2003年、DREAMS COME TRUEのツアーに参加。国内外を問わず精力的に活動中。

[たかの・まさし]
自称、STAGEAフィルハーモニー指揮者。斬新な発想で幅広いレパートリーをこなす豊かな音楽性と演奏力は、まさにエレクトーンの魔術師。これまでに35の国と地域での演奏実績を持ち、海外のファンにはMax TAKANO の名で知られている。最新アルバム『Salut!』『BIRTHDAY CAKE』が好評発売中。名古屋芸術大学教授。
Information
Adoエレクトーン曲集
スペシャル公開講座を開催!
出演:窪田宏、富岡ヤスヤ、鷹野雅史、倉沢大樹、高田和泉、中野正英
- 2025年7月30日(水)兵庫・神戸煉瓦倉庫 K-wave
- 第1部 開場 9:30 /開演10:00(出演:中野、高田、倉沢)
- 第2部 開場11:40 /開演12:00(出演:鷹野、富岡、窪田)
- 第3部 開場17:00 /開演17:30(出演:中野、高田、倉沢)
- 第4部 開場19:10 /開演19:30(出演:鷹野、富岡、窪田)
- 2025年8月1日(金)東京・KIWA TENNOZ
- 第1部 開場10:30 /開演11:00(出演:中野、高田、倉沢)
- 第2部 開場12:40 /開演13:00(出演:鷹野、富岡、窪田)
- 第3部 開場17:00 /開演17:30(出演:中野、高田、倉沢)
- 第4部 開場19:10 /開演19:30(出演:鷹野、富岡、窪田)
料金:
A席5,000円(前売)、5,500円(当日)
S席7,000円(前売)、7,500円(当日)
※全席指定、料金は各部ごとに必要。
お一人様につき要1ドリンクオーダー。
◆チケット詳細
神戸:https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/01qai3rxfud41.html
東京:https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/01d4h6yyswd41.html
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