日本のみならず世界的に活躍する唯一無二の歌い手、Adoの人気曲を6曲収載したエレクトーン曲集が5月に発売された。スコアプロデューサーに富岡ヤスヤを迎え、窪田宏、鷹野雅史、倉沢大樹、高田和泉、中野正英という豪華アレンジャー陣が集結した本作のリリースを記念し、各人の並々ならぬこだわりを紐解く鼎談(ていだん)が『月刊エレクトーン』に連続掲載される。
その第二弾となる『2025年7月号』の「倉沢大樹×高田和泉×中野正英 スペシャル鼎談」より、本誌で掲載しきれなかった制作秘話を中心に、富岡ヤスヤも交えて曲集の魅力を語っていただいた。
――“アレンジの聴かせどころ”や“こだわりポイント”があったら教えてください。高田さんは「踊」ですね。
高田はい。でも、普段自分が選曲してアレンジするなら「踊」は選ばなかったと思うんです。というのも、ヤスヤさんの「唱」もそうですけど、“同じ音程”を何度も続けて歌うメロディーが多くて、そのまま楽器で再現すると表情が乏しくて、単調に聞こえてしまうからなんですね。Adoさんのボーカルはとてもカッコよくて勢いがありますが、その魅力をインストでも表現するにはどうしたらいいかすごく悩みました。そこで、思い切ってベースにピッチベンド(音を滑らかに変化させる奏法)を使いながら、1オクターブ下げる動きを取り入れることで、同じ音が続くメロディーでもアレンジ全体に抑揚が生まれるように工夫したんです。特に意識したのは、聴く人の耳がベースラインに引き込まれるようなアレンジにすることです。結果的に、歌詞がなくても単調にならず、インストならではのカッコよさが出せたのではないかと思っています。ここが今回のアレンジのこだわりポイントですね。
――倉沢さんの「クラクラ」は、どんなところがポイントでしょうか?
倉沢やっぱり“自分が弾いていて気持ちいい”が基本で、原曲はハードなドラムが聴こえてくるので、とにかく“自分をその気にさせてくれるようなリズムの打ち込み”に命をかけました。力が入りすぎて“スネアがちょっと大きいかな?”という心配もあったんですけど、ヤスヤさんから“この曲はガンガンいったほうが気持ちいいよ”と言われたので安心しました(笑)。なので、皆さんもガンガン弾いていただけたら嬉しいです。
――中野さんの「私は最強」は、どんな風に工夫されたのでしょうか?
中野レジストで言えば、“華やかさや鮮やかさの変化をどうつけていくか”を気にしました。音色で言うとグロッケン、木管楽器、ハープなど原曲にはない音や“シンフォニックゴング”など、華やかな音色をどう散りばめたのか聴いてほしいですし、そういった楽器を見つけてもらえたら工夫が伝わると思うので。音符的な着眼点では、最初のサビで和音やオーケストレーションを変えてみたり、副旋律も作って足しています。
――今回の曲集は、皆さんのプロならではの素晴らしい演奏が【参考演奏付レジスト】として販売されて大きな話題になっています。中野さんは月エレ本誌でお二人の演奏について語っていらっしゃいますが、倉沢さんと高田さんはお二人の演奏を聴いていかがでしたか?
倉沢まず、高田さんの「踊」は一曲で何曲も聴いたくらいの充実感で、ラストで「ブラボー!」と叫びたい気持ちになりました。高田さんの新たな一面を見せてもらいましたね! 一曲を通して生楽器とシンセサウンドが融合されていて、エレクトーンの機能をフルに使った印象。本誌インタビューでも言われてましたが、“音色”と“アカンパニメント”を探すのにとても苦労しただろうな〜と思いました。
中野くんの「私は最強」は全体的に爽やかなサウンドで、中野くんらしさが存分に楽しめるアレンジでした。特に高音ストリングス、グロッケン、チャイムなどのオーケストラサウンドが、今回のポイントだと思いましたね。そして、ハープのグリッサンドなど、さりげなく使われているアカンパニメントがとても自然な流れになっていて、まるで打ち込んでいる!?ようなクオリティ! さすがだと思いましたね。
高田私は、「うわぁぁぁ倉沢さーーーーん!!!!!!」「うおぉぉぉ中野くんーーーー!!!!!!」と聴きながら悶絶(笑)。二人とも原曲コピーが基本のアレンジなのに、ちゃんとそれぞれのカラーが色濃く出ていて、しかも原曲にも負けないくらい豪華に聞こえる…なんだこのマジック〜!と言うか、とにかくお二人の底力に圧倒されました。
富岡今回はいわゆる模範演奏じゃなくて、「プレイヤーのオムニバスアルバムを作る!」くらいの気合で本気の演奏をしてもらって、みんなとても苦労したようだけど、「エレクトーン2年目の小学生の生徒が、弾けないけど聴いて楽しんでいるようです」とか、すでにたくさんの嬉しい声をもらってるんだよね。だから、演奏はできたらまず“曲順”に聴いてもらえるとすごく嬉しい。1曲目の「阿修羅ちゃん(窪田アレンジ)」のワクワクから始まって、中野くんの「私は最強」の高揚感で終わる...そういう流れを考えた曲順なので。STAGEAのMDRには“リピート再生”機能があって、その中の“ALL”(写真参照)を選ぶとずーっとエンドレスに演奏をループ再生してくれるけど、 気持ちがアガる曲が多いから、“ながら聴き”しながら片付けとか洗い物とか苦手な作業をクリアするのもいいかもしれない(笑)。もちろん自分の好きな順に入れ替えて聴くのもランダムに聴くのもアリです!


――好きな順に聴きたい場合は、USB内にソングコピーして曲名のアタマに数字を付ければ、その順に再生してくれるわけですね。この“参考演奏”の制作では、思わぬ苦労があったと聞きました。
倉沢そうなんです、参考演奏のレコーディングでは“オーディオ・メーター”に本当に苦労しました(笑)。
富岡みんなそうだよね。普段、プレイヤーのコンサートではPA機器を使うことが多いので、それを前提に音を作ってしまって、STAGEAのスピーカーで音が割れないようにレベル調整するところで、みんな苦労したよね。
倉沢最後の最後までやっていたのは僕じゃないかな?
高田私も倉沢さんと同じで、最後に待っていたのはピーク超えを示す赤ランプの消火作業でした(笑)。
「踊」はダンスミュージックだし、弾きやすさを優先するとA.B.C.全活用かなと思って、何十周も探したけどピッタリなものがなくて。“ビートをもっと強化しては?”とヤスヤさんにいただいたアドバイスは、結局キックなどをバスバス打ち込むことでクリアできたんですけど、それによって赤ランプとの戦いがすごく複雑なものになってしまって(笑)。一番大変だったのはそこかな。
中野高田さんのアレンジは、ほかにも戦いの成果がすごく感じられて感動しましたね。僕もEDMはよく扱うジャンルなので、あの大変さは本当によくわかります。とにかく音色やエフェクトの種類が多いし、しかも今回はバンクを4つまで使えたので、やろうと思えばいくらでもできる反面、それだけ仕掛けや工夫もたくさん盛り込まなければいけない。リズムもアセンブリーで組んで、隠しエフェクトもたくさん引っ張ってこないといけないし、他のジャンルではあまり使わない手法も多いから。
富岡そういった隠れた苦労の成果を、レジストを覗いて見つけてほしいよね。ところで皆さんは、VA音源は使ったりしますか?
倉沢STAGEAでは、あまり使っていないです。
中野今回は使っていないですが、僕は普段はよく使います。それこそシンセサウンドのとき、どうしてもサンプリングされた音源よりもアナログシンセのほうがタッチに対する音質の変化に優れているので。ただ、カジュアル(ELC-02)にはないのでケースバイケースですが、“V-ウッディリード”や“V-ソーリード”は今でも一軍ですね。
高田私は曲によってですね。時々使う音は“V-エアフォン”です。すごく柔らかい音で、それだけはVA音源でしか出せないと思っているので好んで使います。タッチで個性が出せる音色が入っていて、単発で使うよりもエッセンスとして混ぜたり、それを加工してさらにワウをかけてみたり、遊びの音色のような感覚で。“V-エアフォン”は単発で使うこともありますね。
――この機会に、メンバーに尋ねたいことはありますか?
高田ヤスヤさんに質問してもいいですか? 今回のメンバーって、(2025年)3月にあった三木楽器さんのコンサート『HIT PARADE』でご一緒したメンバーじゃないですか。ヤスヤさんの中ではたまたまだったのか、そこで発表することも想定してこのメンバーを選んだのか、個人的にモヤモヤしていたんです(笑)。
富岡実は...結果的にこのメンバーになったんです。この6名でなかったら『HIT PARADE』で発表していなかったと思う(笑)。
高田いつも先読みされる方だから、そこまで計算し尽くされて『HIT PARADE』で発表されたのかなと思って。なるほど、やっと腑に落ちました(笑)。
中野いやもう、こんな素敵なメンバーに入れていただけて嬉しいです。
富岡曲集講座も、『HIT PARADE』の打ち上げで決めたんですよ。
高田そうなんですか!?
富岡すごく楽しい雰囲気だったじゃないですか。だから、このメンバーでもう1回集まりたいなと思って。何がいいかなと思ったら“講座だ!”って。
――ところで皆さんは、今回のアレンジで煮詰まったことはありましたか? その解消法や気分転換の仕方があったら教えてください。
高田えぇと...本当の事を言うと、終始ずっと煮詰まっていました(笑)。 気分転換というか、Adoさん関連のYouTube動画をたくさん見て現実逃避していました。でもそれを見るとあらためて「Adoかっこええ!」と気分が上がり、何としてでもええもん作りたい気持ちがメラメラと湧いて来て(笑)。
倉沢私も何度も煮詰まっていましたね。そんな時は一度アレンジから離れて、全く違う事をするんです。例えば、“全く違うタイプの音楽を聴く”とか“庭の草むしり(笑)”とか。1時間ほど違う事をしてエレクトーンに向かうと、気が付かなかったバランスや音色の選択など、良いアイデアが浮かぶことも。ダメな時はダメなんですよね。だから、気分転換は大切だと思います。あとは、“忘れた頃に原曲をもう一度聴く”も実はとても大切。あらためて原曲を聴くと、「こんな音鳴ってたっけ?」とか、新たな発見があります。私は家でヘッドフォンを使う事はほとんどないのですが、出先でヘッドフォンで聴くと「こんな音が!」とか「パンニングこんな感じなんだ〜」とか、あらためて気づくところがありますね。
中野僕は、特に“煮詰まった”という感覚はなかったと言いますか...アレンジの方向を変えてほしいという話をいただいたタイミングで、初回提出の締め切りまで残り4日。しかもそのうち2日はレッスンが入っていて、別件の本番も控えている状況でした。さらに月エレのアレンジも並行していて...もう、とにかく必死で、持てる時間すべてを注ぎ込みました(笑)。なので、正直なところ「煮詰まったら間に合わない!」という気持ちのほうが強かったですね。「弾き歌いでも成り立つようなアレンジにしてほしい」というオーダーも当初あったので、メロディーはサックス1本で最初から最後まで通して、そのまわりをさまざまなオーケストラの楽器がユニゾンで支えていくようなスタイルにしました。ただ、もし「いろんなオーケストラの楽器で順番にメロディーを受け渡してほしい」みたいな依頼が来ていたら...間違いなく煮詰まっていたと思います(笑)。とはいえ、怒涛のスケジュールの合間には、地方に行った隙間時間で温泉に入ったり、美味しいものを食べたり...気分転換はしっかりできました! そのぶん、だいぶ散財もしましたけど(笑)。
――貴重な制作秘話をありがとうございました。最後に、曲集を手に取ってくださる皆さんにメッセージをお願いします。
高田みんなで乗り越えた曲集になったので、この曲集は個人的にも思い入れのある曲集になりました。
倉沢私もそうですね。レジストも参考演奏もほかのプレイヤーの皆さんと一緒に入るので、自分の曲集よりも力が入った気がします。
中野みんなでアレンジしたものがひとつの曲集にまとまるのが初めてなので、とても嬉しいです。たくさん弾いて聴いて楽しんでいただきたいですね。
Interview&Text:溝口元海
本記事で紹介した商品
『STAGEA アーチスト 5~3級 Vol.51 Ado Electone Score produced by yaSya』
(発行:ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス)
発売日:好評発売中
仕様:菊倍版縦/80ページ
定価:3,520円(税込)
ISBN:9784636120097
【収載曲】
1.阿修羅ちゃん(Electone Arranged by 窪田宏)
2.唱(Electone Arranged by 富岡ヤスヤ)
3.新時代(Electone Arranged by 鷹野雅史)
4.クラクラ(Electone Arranged by 倉沢大樹)
5.踊(Electone Arranged by 高田和泉)
6.私は最強(Electone Arranged by 中野正英)
【対応機種】
ELS-02C/ELS-02X/ELS-02/ELC-02
※この曲集は【ELS-02シリーズ】【ELC-02】専用です
※別売対応データは【参考演奏付レジスト】【レジストのみ】の2種類
プロフィール

[くらさわ・だいじゅ]
栃木県出身。7歳よりピアノ、16歳よりエレクトーンを始める。インターナショナルエレクトーンフェスティバル'93にてグランプリ受賞。1998年の長野冬季オリンピックでは野外競技表彰セレモニーの作曲・演奏を担当。アレンジャーやジャズピアニストとしても活動中。

[たかだ・いずみ]
エレクトーンプレイヤー、ピアニスト、作曲家。大阪府出身。インターナショナルエレクトーンコンクール'99 ポピュラー部門第2位。これまでにアルバム4作を発表。STAGEAパーソナルシリーズの楽譜集も4冊出版。心に残るメロディーと色鮮やかな風景の音世界、圧倒的な表現力で多くのファンを魅了している。

[なかの・まさひで]
プレイヤー、作編曲家。国立音楽大学卒業。ヤマハエレクトーンコンクール2008 A部門第2位(日本人最高位)。国内外でのコンサートやセミナー、自主プロデュースライブなど精力的に活動。曲集『STAGEAパーソナル 5~3級 Vol.67 中野正英2「モンキー・メトロポリス」』が好評発売中(小社刊)。
Information
Adoエレクトーン曲集
スペシャル公開講座を開催!
出演:窪田宏、富岡ヤスヤ、鷹野雅史、倉沢大樹、高田和泉、中野正英
- 2025年7月30日(水)兵庫・神戸煉瓦倉庫 K-wave
- 第1部 開場 9:30 /開演10:00(出演:中野、高田、倉沢)
- 第2部 開場11:40 /開演12:00(出演:鷹野、富岡、窪田)
- 第3部 開場17:00 /開演17:30(出演:中野、高田、倉沢)
- 第4部 開場19:10 /開演19:30(出演:鷹野、富岡、窪田)
- 2025年8月1日(金)東京・KIWA TENNOZ
- 第1部 開場10:30 /開演11:00(出演:中野、高田、倉沢)
- 第2部 開場12:40 /開演13:00(出演:鷹野、富岡、窪田)
- 第3部 開場17:00 /開演17:30(出演:中野、高田、倉沢)
- 第4部 開場19:10 /開演19:30(出演:鷹野、富岡、窪田)
料金:
A席5,000円(前売)、5,500円(当日)
S席7,000円(前売)、7,500円(当日)
※全席指定、料金は各部ごとに必要。
お一人様につき要1ドリンクオーダー。
◆チケット詳細
神戸:https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/01qai3rxfud41.html
東京:https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/01d4h6yyswd41.html
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