バッハへのオマージュとして書かれた作品の多くは、彼の対位法における卓越した技術を強調していますが、私はこの作品では別のものを強調したいと考えました。それは彼の劇的で構造的な和声と調性の使い方、そして精巧な旋律です。バッハは先人たちが築いた調性の可能性を前例のないレベルにまで高めましたが、興味深いのは、当時は和声を教えるメソッドが存在しておらず、彼が声部進行の知識、手や耳を使い自らの力で独自の言語を確立したことです。そのことを念頭に置きつつ、曲中の基本的なセクションが和声的な特徴によって分割された、バッハと同じような和声の緊張と解決を持ちながらも、現代的な和声と変則的な声部進行を持つ作品にしようと考えました。精巧なメロディを持つ暗いセクションは、“Chahar-Gah”と呼ばれるペルシャの旋法に由来する動機で開始され、やや型破りな2つのパートを伴って展開します。疑似的なフガートの構造(ここでも和音の響きが強調されています)で展開し、クライマックスの不協和音に到達します。その後、より伝統的な和声や声部進行を用いた穏やかな中間部へと移行していきます。この部分では、バッハ自身も複数の作品で使用した有名な合唱曲 “O Welt, sieh hier dein Leben”の冒頭のフレーズが使われており、展開部の動機を伴って曲のクライマックスを迎えます。その後コーダでは2つの主旋律が穏やかに重なります。
この作品は2層構造になっています。根底にあるのは、暗闇から光へと向かう構造です。もうひとつは、バッハのミサ曲 ロ短調の中の“Cum Sancto Spirito”から発想を得たもので、左右対称の構造になっており、穏やかな合唱を伴う中間部分に到達します。この部分に関して私は、人生に行き詰まりを感じていた人が(中間部でイメージされる)バッハへの旅を通して精神的な充足感を得た後、心の闇が裂けるかと思われたが、実際には光と闇の両方が融合して調和しているような様子を想像しています。