そもそも「楽譜」とは何か? ~その2:歴史の変遷から辿る【演奏しない人のための楽譜入門#20】
この連載も遂に最終回。最後は、前回に引き続いて「楽譜」というものを改めて検討していきます。その1では「楽譜 music, music paper」という言葉を出発点にしましたが、今回は楽譜の成り立ちを歴史に沿ってみていきましょう。その過程のなかで、前回の記事で積み残した「五線譜の起源」と「オックスフォード大学において、五線譜が植民地主義的とみなされるようになったのは何故か?」(イギリスのテレグラフ紙に掲載された「オックスフォード大学の教授が“脱植民地化”を目指し、記譜法〔Musical notation〕に“植民地主義”の烙印を押す」というニュースから派生した話題です)という2つの事柄にも答えていきたいと思います。 言葉と音を結びつけ、音の高低を記録する (出典元: Wikipedia) 楽譜の起源を遡っていくと「セイキロスの墓碑銘」のようなものに辿り着きます(これ以前にも断片的に残された旋律であれば現存していますが、「セイキロスの墓碑銘」は短くとも欠損がないため、代表例として挙げられることが多いのです)。時代については諸説ありますが、おおよそ1世紀前後の円柱型の石碑で、下に示したようなテキストが刻み込まれています。 (出典元:Wikipedia) ギリシア語の詩の上に別の文字と記号が書かれていますが、これが今から2000年ほど昔の楽譜なのです。現代の五線譜に落とし込むと下の譜例のようになります。つまり、これら2つを対応させると、ギリシア文字の「C」がラ、「Z」がミ、「K」がド♯、「I」がレ……といったように音を示しており、その上に書かれた記号については、例えば「―」で音の長さが2倍に――つまり、基準の拍が8分音符だとしたら4分音符になり、「┘」で音の長さが3倍になることが分かります。ここでポイントとなるのは、高いミは「Z」、低いミは「┐」といったように、オクターヴ違いの音は異なる文字で表現されています。明らかに現在とは違いますよね。 (出典元:Wikipedia) このように最初期はアルファベットと記号の組み合わせで旋律を記録していたのですが、9世紀以降に楽譜化(記譜)されたといわれるグレゴリオ聖歌の初期楽譜になると、歌詞の上に断片的な曲線が書かれるケースが使われたりしています。これは前の音から次の音へどのくらい音高が変わるのかが示されており、旋律の動きを記号化した楽譜をネウマ譜と呼ぶようになります。そしてアルファベットよりもネウマによる記譜が主流となっていくのです。 (出典元:Wikipedia) 11世紀以降になると、音の高さの基準となる譜線が用いられるようになる機会が少しずつ増えていき、直感的に音の高さが掴みやすくなります。この譜線を考案したのが、グイド・ダレッツォ(991/2頃~1033以降)という修道士でした。下の譜例は12世紀頃のネウマ譜なのですが、譜線の数が一定していないことが分かるかと思います。譜線の左側には「F」のような記号が書かれていますが、これがヘ音記号(F cref)の原型になったもの。つまり、この線の上に来る音符が「F(ファ)」であることを示しています。 (出典元:Wikipedia) ...